2021年7月14日水曜日

あなたの空き時間に小説を

 

あなたの空き時間に小説を

なにもすることのない休日に

たそがれの空に感動した日にも

のんびりしたい初夏の午前中にも

空がきれいに澄んで真っ青な昼にも

きみがいなくてとてもさみしい夜にも

時計を気にせずまったり過ごす午後にも

間一髪でバスをのがしたついてない朝にも

にぎやかな通りがすっかり寝静まる深夜にも

小さなきみが泣き疲れてぐっすり眠る夕方にも

説明会終わりの霧雨けむる金曜日の昼下がりにも

をしまいの始まり、始まりのおしまい午前0時にも

10倍、10倍

 

10倍、10倍


ある日、Aはズボンのポケットに1円玉が入っているのに気づいた。普段、小銭をポケットに押し込むこともないので、少しおかしいなと思ったが、何となく財布に入れずそのままポケットに入れておいた。

次の日、Aは家族でスーパーに買い物に行った。会計を済ませ、買った物を袋に入れていると、床に落ちている10円玉が目に飛び込んできた。いつもなら気にすることのない小銭を、どういうわけか少し気になって、それを拾ってポケットに押し込んだ。

その次の日、Aは会社の自動販売機でコーヒーを買った。おつりを取ろうとしたら、そこには100円玉があった。元々そこにあった100円玉なのか、おつりを機械がまちがえたのか、わからなかったが、ともかくその100円玉をポケットに押し込んだ。

その次の日は金曜日だった。朝、出勤しようと準備をしていたAは、ずっと着ていなかったスーツを取りだして着た。ふと、内ポケットに手を入れてみると、きれいに折りたたまれた1000円札があった。

土曜日の午前中、最近はラッキーなことが続いているなと思いながら、1円玉、10円玉、100円玉、そして1000円札をテーブルの上に置いた。そして新聞の片隅に鉛筆で数字の「1」を4つ書いた。「1111円…… 次は1万円か…… まさかな」

Aは少し気になって、運試しをしてみようと思い立った。Aは宝くじを買いに出かけた。Aは、それまで宝くじのようなものを買ったことがなかったので、何を買うべきか迷った。ただの運試しなので、すぐ結果の出るものを店員にすすめてもらった。コインで削ってみると、1万円が当たった。Aは意外にも驚かなかった自分に驚いた。1万円当たるという確信めいたものが、コインで削っている間に芽生えていた。

Aは、このままいけば大金持ちになれると皮算用した。何をしても成功する気がしていた。Aは、その宝くじ売り場で、1週間後に当選結果が出る宝くじを1枚だけ買った。

日曜日、Aは競馬場に行った。次は10万円だとわかっているので、馬券を買うのは簡単なことだった。そしてその通り10万円を手に入れた。

月曜日、会社に行く足取りも軽かった。通勤の途中、次の100万円をどういう形で手に入れられるのか、そればかり考えていた。Aは会社に着くと、上司に呼び止められた。先日提出した企画書が社内コンペで優勝し、社長から特別に100万円のボーナスが出るというものだった。

Aは、もう完全に驚かなくなっていた。このまま行けば、大金持ちになるわけだから、100万円はただの通過点だったし、会社での出世もAにとっては意味の無いものになっていた。

次の日の朝、Aの奥さんがAに向かって言った。

「前、話していた生命保険入っておいたから。1000万円の死亡保障のついたやつね……」

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